「嫌われ松子の一生」この映画のタイトルは、決して冗談ぶいているわけではない。紛れもなく“運命”に嫌われ続けた女の一生を、微塵の遠慮も配慮もなく徹底的に描ききっている。
「不幸」、とにかく「不幸」だ。映画の90%以上は、松子という女の「不幸話」である。「下妻物語」で長編デビューを果たして早くも“鬼才”という名を掲げる監督・中島哲也の、極彩色あふれた美しいビジュアルと、特異でユーモラスな演出に彩られてはいるが、時に胸クソが悪くなるほどに“不幸せ”で溢れている。
「不幸」な映画は好きではない。もしかすると、この映画も本当は大嫌いかもしれない。でも、ラスト、涙が滲み出てきた。
主人公・松子は、それこそ見ている方が腹立たしくなるほどに、どうしようもなく人生に不器用で、不幸せだ。しかし彼女は誰よりも「美しく」見える。それは、彼女がいつも誰よりも“幸せ”を望み続けたからだ。
松子の人生は、ほかの誰よりも安易ではなく、結局、幸せにはなれなかった。しかし、彼女が望み続けたその“想い”を感じた時、そもそも「幸福」とは何なんだ?彼女は実のところ誰よりも“幸せ”だったんじゃないかという思いにかられる。
主人公の女のこの上ない「不幸」、それを励まし彩るかのようなミュージカルシーン。そして、主演女優と鬼才監督の確執。映画のテンションとテーマ性はまるで違うけど、この映画は日本版「ダンサー・イン・ザ・ダーク」だ。
類まれな美しさを輝かせつつ、これほどまでに「不幸」に汚れられる女優は、中谷美紀をおいてそうはいない。「ダンサー・イン・ザ・ダーク」主演のビョーク同様、彼女が途中降板しなかったことこそ、この映画の最大の「幸福」かもしれない。
「嫌われ松子の一生」
2006年【日】
鑑賞環境:映画館
評価:8点
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嫌われ松子の一生
嫌われ松子の一生
STORY: 昭和22年・福岡県大野島生まれの川尻松子(中谷美紀)は、お姫様みたいに幸せな人生に憧れていた。しかし、20代で教師をクビになり、エリート街道から転落、家を飛び出して風俗嬢になってしまう。その上ヒモを殺害して刑務所へ送られ、壮絶…