「ジャーヘッド」

2006☆Brand new Movies

 

「戦争は時に“狂気”を生む」のではなく、
「戦争は常に“狂気”しか生まない」ということを、この映画は実に独特な語り口で物語る。

劇中で上映される名作「地獄の黙示録」などに代表されるように、悲惨な戦争環境によって、精神が蝕まれ“狂気”と化した人格を描きつける映画は多々ある。
しかし、何も、戦場の奥地に王国を作ったり、“生死”に対する感覚が崩壊し殺人マシーンと化してしまうなどという仰々しいことだけが、“戦争の狂気”ではないのだ。

戦地に赴いたものの、何も無く、誰が死ぬわけでも、誰を殺すわけでもなくとも、“狂気”は確実に生まれ、突如蝕んでいく。

それは、戦争のある一部分に狂気が潜んでいるのではなく、戦争そのものが狂気であることに他ならない。

そして、一度その狂気に侵食された者は、たとえ日常に返ろうとも、容易に抜け出すことは出来ない。
だからと言って、大袈裟に精神が崩れるというわけではない。ただ、静かに確実に、空気のように自分の中に在り続ける。
それこそが、この狂気の真の恐怖なのだと思う。

この深いテーマ性をもった物語を、敢えてライトなノリとテンポで、確実に描くアカデミー賞監督サム・メンデスの演出力は流石だ。
そしてそのライトさは、この映画で描かれる状況は、今この瞬間も世界のどこかで“当たり前”のように繰り広げられているのだということを、雄弁に物語っている。

「ジャーヘッド JARHEAD」
2005年【米】
鑑賞環境:映画館
評価:8点

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