マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)が、映画史においても過去例を見ない大シリーズとして成功したのは、ひとえにそのバランス感覚の良さだと思う。
2000年代、アメコミヒーロー映画の成功条件は、よりナイーブに、よりダークに、ヒーローが抱える心の闇を描き、悲壮感を紡ぎ出すことだった。2008年のクリストファー・ノーラン監督による「ダークナイト」は、その極みだったろう。
奇しくもその同年に公開されたのが、MCUの第一作となった「アイアンマン」だ。
ヒーローとしての苦悩は描き出しつつも、ヒーロー映画ならではのケレン味と高揚感を存分に散りばめた抜群のバランス感覚こそが、「アイアンマン」に端を発するMCUの最大にして最高の特長だったと思う。
そして、そのバランス感覚の良さは、MCUとしての連作の中でも発揮されていて、その顕著な例が、「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」の直後に間髪入れずに公開されたこの「アントマン」だった。
映像表現の物量的にも、ストーリーの情報量的にも、描かれるテーマ性的にも、圧倒的な重量感だった“アベンジャーズ2”の直後では、流石のファンであっても、同様のテイストのヒーロー映画を観ることは少々億劫だった。
そんなタイミングで“新登場”したこのヒーロー映画は、そのキャラクターの特性通りに“ミニマム”で、ライトなノリの良さに満ち溢れていた。そして何よりも、娯楽活劇として圧倒的に面白かった。
アベンジャーズの面々の中でも色々な意味で小さなキャラクターではあるけれど、このヒーローが果たした役割は、あまりに大きい。
そして、今、「インフィニティ・ウォー」の後で、かつてなく重く沈み込んでいる全世界のMCUファンにとって、公開を控える続編「アントマン&ワスプ」への期待感は、あまりにも大きく膨れ上がっていることだろう。
「アントマン Ant-Man」
2015年【アメリカ】
鑑賞環境:インターネット(hulu・字幕)
評価:9点
コメント