「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」“フェイクニュースが生まれる時代、その理由と背景”

2024☆Brand new Movies

評価:  8点

Story

1969年、アメリカ。ケネディ大統領が宣言した〈人類初の月面着陸を成功させるアポロ計画〉から8年――。未だ失敗続きのNASAに対し、国民の関心は薄れ、予算は膨らむ一方。この最悪な状況を打破するため 政府関係者のモー(ウディ・ハレルソン)を通してNASAに雇われたのはニューヨークで働くPRマーケティングのプロ、ケリー(スカーレット・ヨハンソン)。 アポロ計画を全世界にアピールするためなら手段を選ばないケリーは、宇宙飛行士たちを「ビートルズ以上に有名にする!」と意気込み、スタッフにそっくりな役者たちをテレビやメディアに登場させ、“偽”のイメージ戦略を仕掛けていく! そんな彼女に対し、実直で真面目なNASAの発射責任者コール(チャニング・テイタム)は反発するが、ケリーの大胆で見事なPR作戦により、月面着陸は全世界注目のトレンドに! そんな時、モーからケリーにある衝撃的なミッションが告げられる――! Filmarksより

『フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン』ファイナル予告 7月19日(金)全国の映画館で公開<予告3>
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Review

タイトル「Fly Me to the Moon(私を月に連れて行って)」は、ジャズのスタンダードナンバーから由来している。1960年代のアポロ計画の只中で、フランク・シナトラによるカバーがテーマソングとしてヒットし、アポロ11号にも積み込まれた。それが人類が月に持っていった最初の楽曲であるという。
本作鑑賞後に、この楽曲にまつわる文脈を知ると、とても的確な映画タイトルだったのだなあと思える。

鑑賞前は、アポロ計画を背景にした軽いタッチのラブコメなのかと思っていたが、実際はもっと複合的で、1960年代当時のアメリカの社会背景や、ソ連との冷戦構造を軸にした国際事情も絡まった、想像よりもずっと社会派なコメディ映画だった。
ストーリーテリングのメインに存在する題材は、要するに“アポロ計画のプロモーション作戦”。ベトナム戦争も泥沼化するアメリカ社会において、いかに月面着陸計画に注目と資金を集めるか、スカーレット・ヨハンソン演じるPR業界のプロと、チャニング・テイタム演じるロケット発射責任者が奔走し、駆け引きし、惹かれ合うという話。

嘘か真か、かの人類史上歴史的映像の代表格である月面着陸映像も、このプロモーション活動の計略の一つとして考案され、並行して万が一の失敗に備えて“フェイク映像”の制作が画策されるというストーリーが興味深かった。
月面着陸映像にまつわる捏造説や陰謀論は根強く有名で、数々の映画作品でも題材にされてきたものだけれど、“フェイクニュース”に対する取り扱いや受け取り方が世界中で議論される今の時代だからこそ、改めてタイムリーなテーマであると思えた。

現代社会同様に、当時の社会においても、“フェイクニュース”を発信する側の思惑や、それを信じてしまうであろう大衆側の心理には、時代的な理由がある。
本作においては、ウディ・ハレルソン演じる政府側の要職が、国家の威信保持と安定化のために、アポロ計画の“プロモーション”と“捏造”を二枚舌で推進していくわけだが、彼が彼の職責においてそのような企みを画策する理由もよく分かる。
実際問題、結果的に月面着陸成功の歴史的映像が世界に届いたからこそ、アメリカ人をはじめとする大衆は歓喜したけれど、もし計画が大失敗に終わり、人々が期待した“映像”が届けられなかったとしたら、その失望感はより一層深まり、時代の流れ自体が変わりかねない。

ニュース映像をはじめ、虚偽入り交じる「情報」が与え得る功罪を、このコメディ映画は意外なほどに雄弁に物語っていた。それは、2024年、SNSによる情報の流布により、政治にまつわる真意や在り方が問われた日本においても、痛感する要素だったと思う。

映画作品としてのルックやクオリティも総じて高かったと思う。
まず印象的だったのは、スカーレット・ヨハンソンの60年代コスチュームが美麗であったこと。この女優の魅力を改めて堪能できると共に、彼女が演じるキャラクターの人間性や、時代性も、ファッションを通じて感じることができた。
また、アポロ11号の発射シーンをはじめ、映像的な精度や造形も極めてレベルが高かったことが予想外のポイントだった。映画の作りそのものがとてもリッチだったと思う。

一つ苦言を呈するとするならば、このストーリー展開で132分という上映時間はやや長過ぎる印象で、冗長なシーンが散見されたことは否定できない。
ロマンス描写をもう少し抑え、社会派コメディとしてタイトにまとめた方が、もっとスマートで完成度の高い映画になったように思う。それでも、主人公の二人が惹かれ合う要素は十分に表現できたと思える。

とはいえ、想像以上に見応えがあり、現代社会の一員として考えるべき要素が深い良い映画だったことは間違いない。

 

 

Information

タイトル フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン FLY ME TO THE MOON
製作年 2024年
製作国 アメリカ
監督
脚本
撮影
出演
鑑賞環境 インターネット(Apple TV+・字幕)
評価 8点

 

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