評価:
7点Story
戦後を明るく照らしたスター歌手の物語。ヒロイン・鈴子(趣里)のモデルは戦後の大スター笠置シヅ子さん。「東京ブギウギ」」など数々の名曲とともに、日本の朝にあふれる笑顔をお届けします。 Filmarksより
Review
1981年生まれの私は、当然ながら笠置シヅ子が生で歌唱する姿を観たことはない。けれど、或る「記憶」から、彼女が昭和の時代を代表する唯一無二の歌手であることは知っていた。そしてその特徴的な歌声も、印象強く脳裏に刻まれていた。
たぶん、同世代の割と多くの人がそうかもしれないけれど、私が笠置シヅ子の歌声を初めて意識的に聞いたのは、「ちびまる子ちゃん」の映画だった。1992年の映画「ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌」の作中で、まる子のクラスメートの“はまじ”が紹介する歌として、笠置シヅ子の「買い物ブギ」が登場する。
同作は、全編通して様々な歌と音楽を主軸にして展開されるストーリーテリングで、その中で「買い物ブギ」は、はまじが描いたキャラクターが画面狭しと歌い踊るアニメーションと共に強烈なインパクトで映し出されていた。さくらももこをはじめとする同作のアニメーションスタッフの意欲的なクリエイティブもさることならが、そのシーンが強く私の脳裏に残り続けた最たる要因は、やはり笠置シヅ子の歌声そのものに対する圧倒的な存在感だったと思える。
そんなわけで、数年前に朝ドラで笠置シヅ子の人生を描くという報が届いた時点で、とても楽しみだった。その時点ではヒロインの配役は発表されていなかったけれど、きっと面白いドラマになるに違いないと確信めいたものを感じていた。
“笠置シヅ子”をモデルとする以上、主人公が歌唱するシーンは必須であり、ヒロインのキャスティングに求められるものは、一にも二にも「歌唱力」であったことは言うまでもない。
その点において、主人公を演じ上げた趣里は、そのポテンシャルを最大限に発揮し、文句のつけようのない歌唱力とそれに伴う表現力で、笠置シヅ子もとい福来スズ子像を構築し体現してみせたと思う。
ドラマの構成上、各時代、各エピソードにおける“ハイライト”として、笠置シヅ子の実際の楽曲歌唱シーンがいくつも組み込まれていたが、その殆どすべての歌唱シーンにおいて趣里は圧倒的な表現力と支配力を見せ、このドラマを成立させてみせた。
それは昭和の日本、特に戦後の日本社会全体が、笠置シヅ子をはじめとする流行歌手の歌声の力によって励まされ、鼓舞されてきたことを描くこのドラマの核心だったろうと思う。
主人公の脇を固める配役も総じて良かった。水川あさみ、蒼井優、市川実和子、木野はな、そして菊地凛子ら、主人公の人生を通じて彼女の“メンター”として助言をくれる女性たちを演じた女優陣がみな印象的な存在感を放っていたと思う。
そして、歌手・福来スズ子のコンダクターとして指揮棒を振り続ける師、羽鳥善一を演じた草彅剛の演技も忘れ難い。彼の演技は終始一貫して許容範囲ギリギリのオーバーアクトに見えるけれど、「戦争」という音楽家としてはあまりのも辛い時代を乗り越えて、楽曲を生み出し続けた芸術家の特異な人間描写として正しかった。
その一方で、ドラマ全体としては、ストーリーの描きこみがやや表面的であったり、類型的に思えるくだりも少なからず存在していた。
主人公の親子関係や、明確な死も含めて、大切な人間たちが次々に自分のもとから去っていくことへのスターである主人公の心情など、もう少し踏み込んで深堀りしてほしい要素は確実にあった。
太陽のように絶対的な明るさと存在感を放ち続ける主人公の人生模様の中には、その明るさと対比するかのように大切な人たちの死の影が常にくっきりと付き纏っていた。
笠置シヅ子自身が当然孕んでいたであろうその人生の“陰影”に対する人間ドラマや人生観が、もう少し表現されていれば、もっと素晴らしいドラマになったろうと思う。
とはいえ、前述の通りそんな若干の不満要素すらも、歌唱シーン一発で許容させてしまう娯楽性がこのドラマには確実に存在していた。
それはまさに、「ブギの女王」として昭和日本の娯楽史に燦然と輝き続けた笠置シヅ子のドラマに相応しいエンターテイメント力だったと思う。
Information
タイトル | ブギウギ |
製作年(放映期間) | 2023/10/02 ~ 2024/03/29 |
製作国 | 日本 |
演出 | |
脚本 | |
撮影 | |
出演 | |
鑑賞環境 | TV |
評価 | 7点 |
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画像引用:https://web.quizknock.com/boogie-woogie-nani
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